エビデンス・ベイストと認知行動療法

『臨床心理学』 (New Liberal Arts Selection)の筆頭著者である丹野義彦先生は大学時代に指導いただいた恩師であります。

私の大学時代に、丹野先生は『はじめて出会う心理学』(リンク先は改訂版)の執筆途中でおられました。私が出版社希望だということを伝えると、こういう募集があるようだよ、と有斐閣で編集者の募集があることを教えていただきました。

そうした縁もあり、前職での仕事を進めていましたが、分担執筆では丹野先生にご執筆いただいたことはありましたが、大きなものはご執筆いただいていませんでした。ですので、前職卒業の1冊として編集作業を担当することができたのは、大変ありがたいことでした。

丹野先生の専門はもちろん臨床心理学なのですが、エビデンス・ベイスト・アプローチが日本で普及することに長きにわたり尽力されてきました。2000年頃はエビデンス・ベイスト・アプローチや認知行動療法は日本ではあまり市民権を得ていなかった印象があります。専門書や実務書も、それほどたくさんは刊行されていませんでした。

しかし、世界的な潮流のなかで、認知行動療法については、日本でも最近は耳にすることが多くなりました。医師が行う認知行動療法は診療報酬の対象にもなっていますし、物質依存の治療や矯正過程では認知行動療法が実施されています。

認知行動療法に関する刊行物も増大しました。書店に行けば、障害ごと、対象ごとに、さまざまな書籍が刊行されています。

エビデンス・ベイストという観点は特定の療法に特化した考え方ではなく、アセスメントや効果を科学的におこなうポリシーのようなものかと思います。イギリスではそうした観点にもとづいた心理療法のためのアクセス改善政策(IAPT)が実施され、国民のメンタルヘルスが向上したとの結果が得られているようです。どういった障害に、どういった心理療法が効果があるのか、という心理療法のガイドラインも公開されています。

このあたりの「科学性」に対して、違和感や批判的な意見もあるようです。心はそんなものでは測れないし、何より私たちは個別的な存在なのだ、と。そのあたりは難しいところですが、科学観や人間観の違い、といった面もある気がしています。

実際、今回の本では、精神分析、人間性心理学、認知理論、行動理論など、さまざまなパラダイムの理論や介入が幅広く紹介されていて、それぞれ面白いですし、なるほどと腑に落ちるところがそれぞれにありました。この本でも、特定のパラダイムだけではなく、幅広く学ぶことが推奨されています。そうした「違い」をひっくるめて、臨床心理学の面白さなのかだなと感じました。

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